教育目標
「あ、さうださうだ」その時私は袂の中の檸檬を憶ひ出した。本の色彩をゴチヤゴチヤに積みあげて、一度この檸檬で試ためして見たら。「さうだ」
私にまた先程の輕かろやかな昂奮が歸つて來た。私は手當り次第に積みあげ、また慌しく潰くづし、また慌しく築きあげた。新あたらしく引き拔いてつけ加くはへたり、取り去つたりした。奇怪きくわいな幻想的げんさうてきな城が、その度たびに赤くなつたり青くなつたりした。
やつとそれは出來上つた。そして輕かるく跳おどりあがる心を制せいしながら、その城壁の頂きに恐おそる恐る檸檬を据ゑつけた。そしてそれは上出來だつた。
見わたすと、その檸檬の色彩しきさいはガチヤガチヤした色の階調をひつそりと紡錘形の身體の中へ吸收してしまつて、カーンと冴さえかへつてゐた。私には埃ほこりつぽい丸善の中の空氣が、その檸檬の周圍だけ變に緊張してゐるやうな氣がした。私はしばらくそれを眺めてゐた。
不意に第二のアイデイアが起つた。その奇妙なたくらみは寧ろ私をぎよつとさせた。
――それをそのままにしておいて私は、何喰はぬ顏をして外そとへ出る。――
私は變にくすぐつたい氣持がした。「出て行かうかなあ。さうだ出て行かう」そして私はすたすた出て行つた。
變にくすぐつたい氣持が街の上の私を微笑ほほえませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆彈を仕掛しかけて來た奇怪な惡漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆發をするのだつたらどんなに面白いだらう。
私はこの想像を熱心に追求した。「さうしたらあの氣詰きづまりな丸善も粉葉こつぱみじんだらう」
そして私は活動寫眞の看板畫かんばんゑが奇體な趣きで街を彩いろどつてゐる京極きようごくを下さがつて行つた。
授業時間
時限 | 時間 |
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1 | 8:10~9:00 |
2 | 9:10~10:00 |
3 | 10:10~11:00 |
4 | 11:10~12:00 |
昼休み
12:00
~
12:45
時限 | 時間 |
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5 | 12:45~13:35 |
6 | 13:45~14:35 |
7 | 14:45~15:35 |